経営・戦略

2024.05.06 09:00

毎月1億円の赤字から復活、ユニコーン企業Vintedの「V字回復」物語

木村拓哉

Thomas Plantenga, CEO of Vinted Group(C)Vinted

2016年、中古アパレル販売サイトのVinted(ヴィンテッド)が直面する苦境を救うために雇われたトーマス・プランテンガは、会社の将来をテレビCMに賭けることにした。彼がこの80万ドル(約1億2000万円)の賭けに出たとき、この会社は毎月100万ドル(約1億5000万円)の赤字を出しており、キャッシュの残りは1年もなかった。

その当時、プランテンガは創業8年のヴィンテッドを救うために雇われたばかりだった。2008年にリトアニアの大学生が創業した同社は、10カ国の人々が古着を売買するプラットフォームとして急成長した。しかし、ユーザーに無料でサービスを提供する同社のビジネスは赤字で、広告でかろうじてサーバーコストを賄っていた。

ヴィンテッドは、2014年に20%の販売手数料を導入しようとしたが、ユーザーの反乱を招き、トラフィックは一夜にしてほぼ半減した。オランダ生まれのプランテンガは、リトアニアに一度も行ったことがなかったが、知り合いの投資家からのオファーを受けて、コンサルタントとしてその5週間の仕事を承諾した。だが結局、その18カ月後には同社のCEOになっていた。

「ヴィンテッドは、私がそれまで見た中で最高のリテンションとエンゲージメントを持っていました」と語る現在40歳のプランテンガは、リトアニア以外のオフィスのほとんどを閉鎖し、スタッフの半分を解雇し、手数料を75%削減して、会社を立て直そうとした。

しかし、その後も同社の苦境は続いていた。ヴィンテッドの3人の共同創業者に対するプランテンガの最後の提案は、おそらく最も衝撃的なものだった。「私は彼らに、手持ちのキャッシュをすべてCMに費やすようアドバイスしたのです」

一か八かの賭け

ヴィンテッドは、その前にもドイツでCMを打ったが失敗に終わっていた。それでも、疲弊しきった創業者たちは、最後の賭けに出てみることにした。「ゆっくりと死んでいくより、大きく大胆なことをしたほうがいい」と創業者の一人は言った。

当時のヴィンテッドのオフィスは、屋根から雨が滴るソ連時代の工場で、プランテンガと創業者たちは、そこで数字が上がってくるのをびくびしながら待った。すると、CMが放映されるやいなや、アプリのダウンロード数は急上昇した。
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編集=上田裕資

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